2024/09/12
解説・事例紹介

座長特別講演(第32回全体会/2024年9月12日開催分)

2024年9月に開催された第32回全体会では、対面開催の機会を活かし、特別講演として山岡座長に国内外のデジタル通貨の最新動向についてご講演いただきました。そのサマリーを事務局で取りまとめましたのでご紹介いたします。


(全体会での講演の様子)

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中央銀行デジタル通貨(CBDC)の現状

  • 現在のところ、バハマ、東カリブ、ジャマイカ、ナイジェリアの4カ国が2020年から2021年にかけて公式発行している。特にカリブ諸国では、米ドルに連動した通貨を使用しているため、マクロ経済政策上の障害が少なく、現金輸送の困難さからデジタル通貨への需要が高まっていると考えられる。

「CBDCが発行される可能性」アンケート調査

  • 国際決済銀行(BIS)が中央銀行を対象に実施した調査によると、リテールCBDCの発行可能性に関する見解が変化している。特に、2020年度と比較して2023年度の調査では、近い将来にリテールCBDCが発行されると考える中央銀行の割合が減少している。また、中期的(今後4~6年)においても、以前は「発行の可能性が高い」とする回答が多かったものの、最近ではその割合が減少傾向にある。

CBDC普及率について

  • 各国でCBDCが発行されているが普及率は非常に低く、ほとんどの国で利用率が1%未満にとどまっている。例えば、バハマではデジタル通貨サンドダラーの現金に対する比率が0.4%程度で、普及が進んでいない状況。
  • 停電時でもスマホ間でオフラインP2P送金が可能になるような技術が求められましたが、セキュリティやマネーロンダリング防止、KYC対応が大きな課題となっている。このような技術面や普及の課題が、現状の普及率の低さにも影響していると考えられる。

各国のCBDCに対する姿勢

  • 欧州中央銀行(ECB)は、CBDCの発行に関して、「欧州議会が関連法案を可決した後に、ECB理事会が決定する」として、議会の承認を条件としている。
  • スウェーデン(リクスバンク)も国民的なニーズは十分でないとし、CBDC発行には議会の承認が必要であるとの立場を示している。

このように、各国のCBDCに対する姿勢は、日本がもともと取っていた慎重な立場に近づいていると考えられる。

ステーブルコインに関するBISの調査

  • あくまで一般的なステーブルコインの例となる。現実にはステーブルコインの価値が法定通貨に対して変動するという研究成果が比較的多く発表されている。BISの研究では、ステーブルコインにおけるいわゆる『Singleness of money』の重要性が強調されている。
  • これは、さまざまな支払い決済手段が常に1対1で交換できることを指し、非常に重要なポイントになる。これが確保されないと、社会全体に混乱が生じる可能性があり、ステーブルコインにおいても『Singleness of money』の維持が不可欠であると指摘されている。

最近の話題/Basel委員会の報告書

  • Basel委員会は、クラウドサービスやノンバンクの参入といった、委員会や規制監督当局が制御しにくい分野に対して警戒的な姿勢を一貫して示している。この報告書の中でBISは、パーミッションレス型のブロックチェーンについて、誰でも参加可能であるため、銀行にとってリスクがあると指摘している。
  • Basel委員会は比較的パーミッションレスに対して否定的な立場を取っているが、技術者の間からは多くの反論も出ている。
  • 特にパーミッションレスは分散化の理念を純粋に追求するものであり、これが否定されると、DLTの意義そのものが問われることになるため、Basel委員会の報告書にはネット上でもさまざまな反論が見受けられる。

参考:https://www.bis.org/bcbs/publ/wp44.pdf

トークン化預金について

  • 韓国もこの実験を始める。韓国は中央銀行のRTGSの決済システムとトークン化預金の接続をやっていくと言っている。
  • 最近の特徴として、トークン化預金の高度化が進むと同時に、これを中央銀行のRTGSやパブリックな中央集権型システムとどのように接続するかが一つのカギとなっている。

参考:https://www.bok.or.kr/eng/bbs/E0002382/view.do?nttId=10081616&menuNo=400074&pageIndex=1

○Unified Ledger

  • さまざまな資産や支払い手段をリンクさせ、効率的に取引を行うことを目指すものになる。
  • 物の動き、デジタルトークンの動き、そしてデジタルペイメント手段の動きをブロックチェーン上で同期させ、効率的な決済を実現することが求められている。こうしたアプローチを取らなければ、抜本的な効率改善は期待できない、という議論が進んできていると考えられる。

参考:https://www.bis.org/publ/arpdf/ar2023e3.pdf

○デジタルトークンを活用したモデルの検討

  • 国際的に人気があるのはトレードファイナンスの分野。
  • 物品・輸出信用状や船荷証券などの取引に関するドキュメントをデジタル化し、支払い手段と同期させて取引を効率化できないかという発想。
  • 特にトレードファイナンスは最も難易度が高い分野だが、新しい発想を取り入れやすい側面があるため、各国がこの分野に注力しているといえる。
  • 貿易代金のクロスボーダー支払いに際し、デジタルトークン化された支払い手段を関係する中央銀行のシステムと同期させ、支払い指図が自動的に受取先まで到達するようなインフラの構築が検討されている。

BISイノベーションハブの取り組み

  • 国際決済銀行では、BISイノベーションハブを設立し、さまざまなプロジェクトを世界中で遂行している。
  • クロスボーダーの視点が加わり、複数の中央銀行が民間セクターと連携し、例えば国際送金を含む支払い・決済の一連の流れを便利にしようとしている。さらに、取引の対象となるアセットとも何らかの形で連携を果たしていけないかということを訴えていると思う。


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