近年、エネルギーや環境問題への関心が高まり、特にCO2排出削減と脱炭素社会の構築が喫緊の課題となっています。再生可能エネルギー(以下、再エネ)は化石燃料とは異なり、発電から消費までの全プロセスでCO2を排出しないため、その利用拡大が期待されており、CO2を排出しないこと自体が「環境価値」として捉えられ、この価値を市場で取引するビジネスモデルにも注目が集まっています。また、太陽光発電の余剰電力取引において、支払決済の簡素化が課題となっており、ブロックチェーンを活用した解決策が提案されています。
このような背景のもと、電力取引分科会では、再エネ取引にDCJPYを活用することで、効率的な決済と価値移転を可能にするビジネスモデルの検討を進め、その活動結果を「活動成果報告書」としてまとめられています。その中から、2023年度の主要テーマである「環境価値」に関する内容についてサマリーをとりまとめましたので、ご紹介させていただきます。
「電力取引分科会 2023年度活動成果報告書」と併せてご覧ください。
幹事企業様からのメッセージ
関西電力株式会社 石田様
電力取引分科会では、環境価値の二次流通実現に向けた課題について検討し、環境価値のトークン化を想定したビジネスモデルを基に、幅広い意見を集めて課題を抽出しました。多様な業界からの意見を取り入れたこと、分科会での議論を通じて課題をブラッシュアップできたこと、特に規制や制度面に関しては専門家の知見を得て、将来のビジネス化に向けた課題を整理できたことは意義深い成果といえます。今後、この整理がビジネス実施主体による具体的な検討の一助となることを期待しています。また、本書がトークンや環境価値に関する議論の参考資料としてデジタル通貨フォーラムの参加企業の皆様に活用されることを願っています。
活動成果報告書P.8~19参照
環境価値およびトークン化を巡る動向(第4章)
第4章では環境価値の定義から始まり、日本および欧米の環境価値の種類に関する調査結果、公的機関と民間機関が発行するボランタリーカーボンクレジットの検討、さらに環境価値の取引市場の現状と、国内外でトークンがどのように取引に活用されているかについての調査結果をまとめています。
日本における環境価値の種類
1.非化石証書
2.グリーン電力証書
3.Jクレジット
- 環境価値化できる電力量は、各環境価値によって「余剰電力」や「自家消費電力」、またはその両方が対象となる場合がある。
- 非化石証書はJEPXで市場取引可能、FIT非化石証書は法人向けに直接購入や仲介業者経由の購入が可能。
- 2022年4月から、非FIT非化石証書は相対契約等の一定の条件に合致すれば、発電事業者J-クレジットは取引登録簿で管理、転売不可。グリーン電力証書も転売不可。
- 環境価値は温対法、省エネ法、CDP、SBT、RE100などで活用可能。
日本の環境価値の種類
出典:「電力取引分科会 2023年度活動成果報告書」
海外における環境価値の種類
欧米でも日本と同様に、EUではGO(Guarantees of Origin)、北米ではREC(Renewable Energy Certificate)アジア・南米等の途上国ではI-REC(The International REC Standard Foundation)と呼ばれる制度があり、環境価値はグローバルに設定されています。
ボランタリークレジットとは:
民間が発行・運営するカーボンクレジットで、企業の自主的なクレジット利用を前提に導入されたものです。世界で主に使用されているボランタリークレジットには、VCS(Verified Carbon Standard)やGS(Gold Standard)などがあり、これらがボランタリークレジット市場の流通量の大部分を占めています。
環境価値の取引市場について
日本では、非化石証書の取引市場として「再エネ価値取引市場」と「エネルギー供給構造高度化義務達成市場」があり、Jクレジットは「カーボンクレジット市場(GX-ETS)」で取引されています。
民間企業が運営する市場には「Carbon EX」と「JCEX(日本気候取引所)」等があり、これらはトークンではなく、証書ベースで取引されています。
活動成果報告書P.21~P.32参照
環境価値のトークン化に向けた課題(第5章)
第5章では、環境価値をトークン化する際の課題について取りまとめています。まず、参加企業からの意見をもとに課題の抽出を行ったうえで、論点として基本的な考え方やゴールの設定方法、環境価値の種類に関する現状の課題、取引の多様化に向けた方策について整理しています。また、規制制度に関する課題、さらに環境価値トークンのビジネス面での課題についても詳しく検討しています。
論点整理の結果
出典:「電力取引分科会 2023年度活動成果報告書」
論点①
トークンの必要性とメリット・デメリット
〇各種カーボンクレジットをトークン化する想定メリット
a.トレーサビリティ確保によるダブルカウント防止
b.小口化または集約化による流動性確保
c.スマートコントラクトによる取引条件設計・取引コスト削減
d.常時化(いつでも取引可能)
e.即時化(すぐに決済可)
〇想定デメリット
トークンの供給過剰や低品質のカーボンクレジット混在によるトークンの価値低下や、暗号資産を取り扱う際のハードル等。
●環境価値トークン化ビジネスのゴールイメージ
デジタル通貨フォーラム電力分科会では、カーボンクレジットの発行者や購入者が、トークン化された環境価値を市場で取引し、その支払いにDCJPYを使うビジネスモデルを想定している。
●環境価値トークンの利用用途
環境価値は様々な利用用途が考えられるが、電力取引分科会の取組対象としては、デジタル通貨活用を主眼とし、「転売によるデジタル通貨獲得(相対取引や、環境価値トークン取引市場での売却)」にフォーカスしている。
論点②
環境価値ごとの現状とトークン化対象
利用用途として「転売によるデジタル通貨獲得」を想定しているため、A~Cの環境価値のトークン化を検討対象とする。
環境価値の整理
出典:「電力取引分科会 2023年度活動成果報告書」
論点③
多様な利用を実現していくための課題
環境価値発生業務
- 多数の発生源からの情報を集約先へ自動で送信・集約するための設備・システムの必要性
- 設備・システム導入コストの削減が課題
環境価値化業務
- 情報集約と環境価値化を行う運営主体の設置が必要
- 集約方法や価値化ルールの検討が求められる
トークン化業務
- 環境価値の特徴を考慮したトークン設計(同一化や最低取引単位など)の課題
- トークン化システムのコスト低減が課題
市場取引業務
- 参加者の手数料を削減するための市場運営コストの低減が必要
- 転売方法や条件に関する市場運営ルールの検討
論点④
規制・制度面での課題
環境価値トークンを「商品」とし、その決済をDCJPYで行う限り「暗号資産には該当しない」との見解が得られました。ただし、実際に商品・サービスの対価をDCJPYで支払っていても、環境価値トークンで決済しているように見える場合は、暗号資産該当性の再検討が必要になる可能性がある点に注意が必要。
論点➄
環境価値トークンのビジネス面での課題
環境価値の転売にともない対価として得られるデジタル通貨が普及することにより、デジタル通貨でのサービス利用者も増加することが期待できる。一方で、トークン価値の下落リスク、暗号資産への抵抗感、セキュリティリスクといった課題も考えられる。
環境価値とは
環境価値とは、自然エネルギーによってCO2を排出せずに作られた電力や、省エネルギー、CO2排出抑制の付加価値を指し、環境価値は主に「クレジット」と「証書」の2つに大別されます。
クレジット:再エネ設備や森林管理プロジェクトなどによるCO2排出削減量を「t-CO2」単位で認証し、取引可能なもの。
証書 :再エネ由来の電力や熱量を「kWh」や「kJ」単位で保証するもの。