2026/07/16
インタビュー

「トークン化」を巡る国際的理解

―IMF、BISの最近の論稿から―

 世界各国でブロックチェーン・分散台帳技術(DLT)による「トークン化」(tokenization)の金融分野への応用の取り組みが進む中、各国や国際機関などによる情報発信も増加しています。この中で、日本では「オンチェーン金融」という言葉が使われることも増えています。

 もっとも、ブロックチェーン・分散台帳技術の登場前から、ほとんどの支払決済手段や有価証券は預金やブックエントリー証券などの形で電子化されています。また、既存の集中型インフラを連携させることで、証券・資金のDVP(同時受け渡し)などは既に一部実現されています(例:日銀ネット資金系・国債系による日銀当座預金と国債のDVP)。では、「トークン化」は金融にどのような新たな価値をもたらすのでしょうか。

 以下では、本年(2026年)6・7月に公表されたIMF(国際通貨基金)およびBIS(国際決済銀行)による論稿の概要を紹介します。そのうえで、これらの論稿に共通する、「トークン化」を巡る現在の世界的な理解について概観したいと思います。

IMF“Tokenization Can Change the World's Financial Architecture” ― トークン化は世界の金融の構造を変え得る ― 2026年7月公表

 最初に、IMFのTobias Adrian金融資本市場局長が本年7月2日に公表した論稿(IMFTokenization Can Change the World's Financial Architectureの概要を紹介します。

 本論稿はまず、トークン化のメリットは決済の迅速化や支払にかかるコストの引き下げ、プログラムを組み込んだデジタル資産の創出などにとどまるものではなく、「世界の金融の構造を変え得る」と述べています。 すなわち、トークン化はデジタル資産そのものの中に、その権利の移転などを扱うプログラムを組み込むことができ、これにより、「スマートコントラクト」を通じて金融取引における取引の執行や支払、決済などを同時に、かつ瞬時に行うことが可能になると指摘しています。さらに、トークン化に伴い金融におけるリスクの性質や所在も変わるため、金融規制の枠組みも再考しなければならないと述べています。

デジタル通貨フォーラム 山岡 浩巳座長

 また本論稿は、トークン化により、「トークン化預金」、「ステーブルコイン」、「トークン化中央銀行預金」という3つの形態のデジタル支払決済手段が登場していることを紹介します。この中で、ステーブルコインの他の支払手段との交換可能性は裏付け資産の安全性や流動性、発行者の頑健性に依存しており、名目価値以上の裏付け資産を持っていたはずのステーブルコインの価値も、ストレス時には揺らいだケースがあったと指摘しています。  
 そのうえで、本稿はトークン化に対応する法整備の重要性も指摘しています。すなわち、トークンの記録が所有権を構成するものかどうか、トークンの移転が法的にどのように位置づけられるか、トークンの所有や移転にどの国の法律が適用されるか等を明確にしていく必要があると述べています。  
 最後に、トークン化を金融の発展に繋げていく上で、当局としては、トークン化に対応するリスクフリーの決済手段の提供、監督を巡る国際協調、トークン化資産を巡る法的枠組みの整備、プラットフォーム間の相互運用性(interoperability)の確保などを進めることが望まれると結んでいます。

BIS“Anchoring trust in money: innovation beyond stablecoins” ― 通貨の信用をアンカーする:ステーブルコインの先のイノベーション ― 2026年6月公表

 “Anchoring trust in money: innovation beyond stablecoins”は、6月下旬に公表されたBISの年次報告書を構成するかなり大部の論文です。内容としては、昨年(2025年)6月に、同じく年次報告書内の論文として公表された“The next-generation monetary and financial system”を引き継ぐものと言えます 。

 上記論文は、ブロックチェーン・分散台帳技術(DLT)やこれに基づくトークン化について、通貨や資産の取引や移転、決済などを効率化し、金融の効率性を向上させ得ると評価しています。
 すなわち、現在の金融では、メッセージの伝達や取引の対象となる資産・権利の移転、支払、決済などのプロセスが、その都度照合(reconciliation)を行いながら順を追って進められており、これによる摩擦(friction)も生じていると解説しています。これに対し、通貨や資産自体が、自らの移転などに関するプログラムを組み込めるという「プログラマビリティ」を備えることで、これらのプロセスを「スマートコントラクト」や「アトミックスワップ」を通じて自動的に、瞬時に、同時に進められる可能性が広がっていると評価しています。

 またBISは、新しいデジタル技術を金融に応用していく上で、通貨にとって必要不可欠な「信用」(trust)をいかに確保するかが課題だと述べています。
 そのうえで、BISはステーブルコインについて、現在のところ99.4%が米ドル建てであり、また、殆どが暗号資産投資の一環としての利用だと解説しています。こうした観点から、ステーブルコインは現状では通貨に必要不可欠な「信用」(trust)を確保する上で十分ではなく、また「単一性」(singleness)、「(供給の)弾力性」(elasticity)、「健全性」(integrity)といった通貨の基本的な属性も備えていないと、警鐘を発しています。

 またBISは本論文の中で、ステーブルコインの利用が広がった場合に経済や金融システム・金融政策の効果波及経路などに及ぼし得る影響の広範な分析を試みています。BISは、ステーブルコインの利用が現状では限定的にとどまる中、その利用が拡大した場合の影響について確度をもって評価することは難しいとしています。その一方で、ステーブルコインはマクロ経済や金融システムのリスク要因、さらには新興国・途上国の「ドル化」促進の要因となり得ると述べています。  
 あわせてBISは、暗号資産やステーブルコインに使われる「パブリック・パーミッションレス型ブロックチェーン」(誰でも許可不要で認証に参加できるブロックチェーン)における認証者のインセンティブは、認証から得られる手数料に支えられていると述べています。そのうえで、ネットワークが拡大するほど、認証競争の激化や認証コストの増加を嫌気して認証者は他のネットワークに流出しやすいと分析しています。そして、このような認証者の行動はネットワークの分裂(fragmentation)につながりやすく、このことは通貨システムにとって重要な「ネットワーク外部性」や「相互運用性」(interoperability)と相反し得ると述べています。

 以上を踏まえBISは、デジタル技術を金融インフラに応用していく上では、デジタル化された通貨がその信用を維持し、単一性・弾力性・健全性という要件を満たすことが重要と指摘しています。このような観点から、次世代の通貨システム(next-generation monetary system)として、トークン化を銀行と中央銀行という「二層型」を採る現在の通貨システムに応用することで、「信用」と「プログラマビリティ」を備えたデジタル通貨を作ることを提案しています。

 具体的には、トークン化を①預金、②中央銀行預金、③国債などの資産、に応用するとともに、これらのプラットフォームを相互に連携させる「統合台帳」(unified ledger)という姿を、これからの金融インフラとして提言しています。これにより、通貨の信用を守り、「単一性」「弾力性」「健全性」という要件を満たし、さらに通貨システムにとって重要なネットワーク外部性を享受しながら、トークン化がもたらすプログラマビリティなどのメリットも取り込むことが可能となると述べています。

(出所:国際決済銀行)

収斂しつつある国際的議論

 以上みてきたように、IMF、BISという経済・金融分野を代表する2大国際機関のブロックチェーン・分散台帳技術やトークン化に対する見解は今や多くの点で共通しています。具体的には以下の諸点について、国際的な理解はほぼ収斂しつつあるように思われます。

  • ブロックチェーン・分散台帳技術およびこれに基づくトークン化は、支払決済手段や資産そのものを「プログラマブル」にすることにより、移転や支払・決済などを自動的に、同時に、瞬時に行うことを可能とする(⇒このことは、金融規制監督上は新たなチャレンジも生む)。
  • ステーブルコインはトークン化の応用形態の一つであるが、厳密な意味での「単一性」や「価値の安定」、「法定通貨との即時の交換可能性」、「犯罪や不正等への利用の抑止」などの点で課題を残す。また、その利用が拡大した場合の経済・金融などへの影響についても精査が必要。
  • 通貨に不可欠な信用を維持していく上では、現在の銀行・中央銀行からなる二層型通貨システムを活かしながら、これに「トークン化」を応用していくことが考えられる。すなわち、「トークン化預金」、およびその銀行間決済をサポートする「トークン化中央銀行預金」、さらに「トークン化資産(国債など)」を創出し、これらのプラットフォームを相互に連携させる姿が望ましい。
  • このような姿を実現していく上での課題としては、トークン化資産の権利や所有・移転を巡る法整備、新たな金融インフラの姿を想定した規制監督を巡る国際協調などが挙げられる。

 これらの点は、デジタル通貨フォーラムが2020年の発足以来検討を重ねた上で対外的に表明してきた方針や見解ともほぼ一致するものです。新しい技術を取り込んだ金融インフラの構築に向け、世界が同じような方向を目指していることは、大変心強く感じます。今後とも日本の金融インフラのイノベーションに向け、海外とも連携しながら取り組んでいきたいと思います。

話者紹介

山岡 浩巳

デジタル通貨フォーラム座長
フューチャー株式会社取締役 グループCSO


日本銀行において調査統計局景気分析グループ長、同企画室企画役、同金融機構局参事役大手銀行担当総括、金融市場局長、決済機構局長などを務める。
この間、国際通貨基金日本理事代理、バーゼル銀行監督委員会委員なども歴任。