
米国のステーブルコインの流通量の増加を背景に、自国の金融政策・金融産業保護の観点からトークン化預金への対応が加速しています。昨今の特徴としては、単独行でトークン化預金の発行を進めるのではなく、トークン化預金を通じた銀行間の連携に関する取り組みが始まっていることをよく目にするようになりました。 銀行間の連携に対する各国の狙いは何か、連携によって目指していくものはどのような金融インフラであるのか。 デジタル通貨フォーラムの山岡浩巳座長に、トークン化預金を巡り各国の銀行がどのような取り組みを進めているのか、動向を伺いました。
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デジタル通貨フォーラム 山岡 浩巳座長
デジタル通貨フォーラム 山岡 浩巳座長:
預金を用いる支払決済は、「銀行Aに口座を持つ甲から銀行Bに口座を持つ乙への送金」など、複数の銀行にまたがるケースでも利用できます。
すなわち、預金が支払決済インフラにおいて中核的役割を担ってきているのは、以下の重要な諸要件が満たされているためです。
- 預金の価値が法定通貨に対し厳密に安定し、いつでもベースマネー(現金など)と等価で交換可能であること。このため、さまざまな銀行が発行する預金は常に代替可能(fungible)であること。
- 預金が銀行の信用創造機能を通じて弾力的に供給され、経済の支払決済需要を柔軟に満たせること。
- 預金の移動に伴って生じる銀行間の債権債務を効率的に決済する仕組みが存在すること。
銀行の債務をブロックチェーン・分散台帳技術を用いて「デジタルトークン」化した進化型の預金は、「トークン化預金」(tokenized deposit)と呼ばれています。 トークン化預金は、これからの金融インフラにおける支払決済手段として主要な役割を果たすことが期待されています。これをなしえるためには、トークン化預金がこれまでの預金と同様に、複数の銀行にまたがる形で支払決済にも使えることが望ましいでしょう。
こうした要件を踏まえ、現在、複数の銀行が関わる形でのトークン化預金の利用を想定した取り組みが多くの国々で進められています。
以下では、その一部を紹介します。
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英 国 ― GBTD
英国では2025年9月より、業界団体である“UK Finance”が取りまとめ役を担う形で、英ポンド建てのトークン化預金である“GBTD”(Great British Tokenised Deposits)のプロジェクトが進められています。
このプロジェクトには2025年末時点で、バークレイズ(Barclays)、 HSBC、ロイズ(Lloyds Banking Group)、ナットウェスト(NatWest)、ネーションワイド(Nationwide)、サンタンデル(Santander)という英国の6つの大銀行が参画しています。
GBTDプロジェクトは、これに先立って米国シティバンク(Citi)の提唱したコンセプトに基づき設置された“RLN”(Regulated Liability Network)と呼ばれる検討母体の成果に多くを依拠しています。RLNは、デジタルトークン化された預金や中央銀行預金などを包括的に取り扱うプラットフォームとしての「共有台帳」(Shared Ledger)という仕組みを提案し、そのうえで、トークン化預金の変動を、デジタルトークン化された大口決済用の中央銀行デジタル通貨(ホールセール型CBDC)の変動と同期させることで、複数の銀行にまたがる決済を可能とする構想を提示しました。
このような検討も踏まえ、UK Financeは、GBTDを用いた取引の銀行間の決済を実現するスキームとして、以下のモデルを提示しています(UK Finance, “Technical Report”より)。
・ホールセール型CBDCが発行されない場合には、GBTDのプラットフォームをAPI(Application Programming Interface)を通じて中央銀行RTGS(即時グロス決済)システムなどの既存の銀行間決済システムと同期させる。
・ホールセール型CBDCが発行される場合には、その移転とGBTDとの移転をプラットフォーム上で同期させる。
さらに、2019年に金融機関の共同出資により設立されたFnalityを用いる方法も検討されています。Fnalityは、イングランド銀行のRTGSシステムの直接参加者となり、ブロックチェーン・分散台帳技術をベースとして大口決済機能を提供することを主眼として設立された機関です。
このように英国では、複数の銀行にまたがる形でのトークン化預金の利用を可能とすべく、多面的な検討が進められています。
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ドイツ ― CBMT
ドイツでは、ドイツ銀行協会が主導する形で、ユーロ建てのトークン化預金であるCBMT(Commercial Bank Money Token)の銀行横断的な利用などに関する検討が進められています。
この検討グループには、コメルツ銀行(Commerzbank)、ドイツ銀行(Deutsche Bank), DZ銀行(DZ Bank), ヘラバ銀行(Helaba)およびUnicredit銀行のドイツ法人(Hypovereinsbank/Unicredit)というドイツの大銀行5行が参加しています。
ここで提言されているスキームとしては、銀行Aの顧客甲から銀行Bの顧客乙にCBMTでの送金が行われた場合、銀行Bは直ちに、乙が受け取ったCBMTを自らが発行するCBMTと等価で交換するとともに、既存の銀行間決済システムを用いて相当額を銀行Aとの間で決済するスキームが提案されています(図1参照)。
また、ホールセール型CBDCが発行されれば、銀行間決済がより効率的に行える可能性があることも指摘されています。
図1:CMBTの銀行間決済に関する提案
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(出所)杉村和俊、別所昌樹「海外における『預金のトークン化』の取り組みについて」(日銀レビューシリーズ、2024年6月)
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欧州中央銀行- Project Pontes -
欧州中央銀行(European Central Bank, ECB)は、“Project Pontes”(“Pontes”は「橋」を意味する)と呼ばれるプロジェクトを進めています。
Project Pontesは、トークン化預金など分散台帳(DLT)ベースのプラットフォームと、既存の中央銀行RTGSシステムであるTARGETを繋ぐことで、DLTベースの取引によって生じる銀行間決済を中央銀行マネーで行うことを可能とし、決済にファイナリティを与えていくプロジェクトと説明されています。
欧州中央銀行は、2026年第3四半期までに実際のパイロットプロジェクトを開始すると表明しています。また、このプロジェクトのためにフランス銀行は、デジタルトークン化されたホールセールCBDCを2026年までに発行すると述べています。
さらに、欧州中央銀行は2025年、“Project Appia”と呼ばれるプロジェクトの開始を公表しています。このプロジェクトは、中央銀行RTGSシステムであるTARGETを、分散台帳技術にも対応できるものに進化させていくことを目指しています。これを通じて、汎欧州的な“European Shared Ledger”(欧州共有台帳)を構築し、分散台帳ベースの取引が中央銀行マネーによって決済される世界の実現を展望しています。
国際決済銀行(Bank for International Settlements, BIS)
この間、中央銀行の国際的な集まりである国際決済銀行も、トークン化預金が複数の銀行にまたがって利用され、これに伴い発生する銀行間の決済が処理されるモデルを、いくつか提示してきました。
具体的にはまず、トークン化預金の移動をAPIを通じて中央銀行RTGSシステムなど既存の銀行間決済システムと繋ぐ方法(図2内AおよびB)を提言しています。さらに、中央銀行マネーおよび国債もデジタルトークン化し、これらを連携されたプラットフォーム上で同期させながら移転する“Unified Ledger”(統合台帳)と呼ばれる方法(図2内C.Fully fledged unified ledger)も提言しています。
図2:国際決済銀行の提示する銀行間決済のモデル
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(出所:国際決済銀行)
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中国 - デジタル人民元“e-CNY”-
この間、2014年以来、リテールCBDC型デジタル人民元としての“e-CNY”の調査研究および試験発行を重ねてきた中国は、昨年(2025年)末、2026年初より、民間銀行のウォレットで管理されているデジタル人民元について、これを中央銀行の債務ではなく、民間銀行の債務である預金として発行していくという方針の変更を公表しています。
以上みてきたように、トークン化預金などの預金型デジタル通貨を、複数の銀行にまたがってシステム横断的に利用できる姿を目指す取り組みが、現在、多くの国々や国際機関で行われています。これらの方向としては、
① APIを通じてトークン化預金の移動を既存の銀行間決済システムと繋げるもの
② 中央銀行と民間銀行の間にトークン化預金の銀行間決済を行う機関を挟むもの
③ 分散台帳技術を取り込んだホールセール型CBDCを発行し、その移転とトークン化預金の移転とを同期させるもの
など、いくつかの類型が提示されています。
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トークン化預金の銀行間決済の実現は、企業や個人にいつでも即時に法定通貨と等価で交換できるソブリン通貨建てのデジタル決済手段を、広範な経済活動をカバーする形で提供していく上で、大きな力となります。
デジタル通貨フォーラムとしても、このような各国の動きを丹念にフォローするとともに、必要に応じ意見交換や情報共有を行い、日本の支払決済インフラ全体の革新に役立てていく考えです。
主要参考資料
- 杉村和俊、別所昌樹「海外における『預金のトークン化』の取り組みについて」(日銀レビューシリーズ、2024年6月)
- The Bank for International Settlements, “The next-generation monetary and financial system” (June 2025)
- The BNP Paribas, “Why the launch of a wCBDC is key” (September 2024)
- Die Deutsch Kreditwirtshaft,“Commercial Bank Money Token” (July 2024)
- The German Banking Industry Committee, “Think Tank: Commercial Bank Money Token” (April 2024)
- UK Finance, “Technical Report” (September 2024)
- UK Finance, “UK RLN Experimentation Phase - Summary report” (September, 2024)
話者紹介
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山岡 浩巳
デジタル通貨フォーラム座長 フューチャー株式会社取締役 グループCSO
日本銀行において調査統計局景気分析グループ長、同企画室企画役、同金融機構局参事役大手銀行担当総括、金融市場局長、決済機構局長などを務める。
この間、国際通貨基金日本理事代理、バーゼル銀行監督委員会委員なども歴任。
