2024/12/12
インタビュー 分科会

Vol.2 デジタル通貨DCJPY再生可能エネルギー、データ活用で創る未来のエネルギー

デジタル化と持続可能性の両立

山岡 浩巳座長(以下、山岡):最近、生成AIが色々な分野で活用されていますが、生成AIはものすごく電力を消費するものです。
このようなデジタル化の帰結を考えても、電力がこの世から無くなることはまずないでしょう。むしろ電力消費が前提となる状況で、これと環境対応を両立させなければいけません。「生成AIを活用しましょう」と至る所で喧伝されていますが、これに伴う電力消費をどう考えるのか、気候変動対応とどう両立させるのかは大きな課題です。

その意味で、電力取引分科会において、電力の問題を中心に幅広い企業がこのような課題を考えることは、重要な機会だと思います。 例えば、輸送企業であれば、交通網のエネルギー源のあり方をどう考えるかという問題がありますし、他の企業も同様の問題に直面しています。また、生成AIを使って小売流通を効率化させようといった話も次々に出ていますが、生成AIの利用に伴い消費する電力をグリーン電力へシフトし、エネルギー源の転換を進めるインセンティブをどう構築していくかは、今後の大きな課題です。

石田 文章氏(以下、石田):その通りで、加えて言うならば、太陽光や風力を利用した再生可能エネルギーを作るための気候条件が良い適地というものはあるけれども、その適地と半導体産業の工場やデータセンターの立地は必ずしも一致しないというのが課題としてあります。

仮に再生可能エネルギーをそのまま半導体産業やデータセンターに活用できると理想的ですが、再生可能エネルギーの適地と電力需要地がほとんど一致しないため、結局のところ送電線の敷設が必要になります。再生可能エネルギーの適地とデータセンター等の立地は可能な限り一致させた方が、極端な話を言うと、送電線で電気を送るより通信網で情報を送った方が遥かに安いため、情報を通信網で送る方をやっていかざるを得ないのではないかと思っています。
国でもデータセンター等の立地を再生可能エネルギーが豊富な地域へ誘導するなど議論をしている重要な課題です。

電力取引分科会幹事 石田 文章氏

データ活用と再生可能エネルギーの両立も課題

山岡:現在、世界の「ビッグテック」と呼ばれるデータジャイアント企業はクラウドの巨大な提供企業にもなっています。彼らは、クラウドの拠点を税金が安かったりデータに関する法制が向いている国に構築する傾向が強いですが、そうした場所が必ずしも発電に向いている土地とは限らないですよね。

石田:例えば太陽光発電であれば、雨が降らず豊富な日射量が確保できる砂漠の真ん中が良いけれども、では、砂漠の真ん中でクラウドを構築できるかと問われると、建築費の問題でできませんとなります。風力も同様ですが、安定的な風速や持続性が保てることが求められますが、同じようにそのような土地に施設や工場を作れますかと問うと、とても大変です。

デジタル通貨フォーラム 山岡 浩巳座長

山岡:未来の社会を考えた時に、電力とデータとどちらを送る方が良いのか、これはものすごく雄大かつ重要な話だと思います。
今後、電力や気候変動対応にデジタル技術を応用していく上で、どのような課題があるとお考えでしょうか。

石田:私が考えるに、再生可能エネルギーの立地とこれから出てくるであろうデジタル産業の立地について、時間的・空間的に異なるものをどう合致させていくかが大きな課題であると思います。当然のことながら、電気に関して言えば再生可能エネルギーの総量・比率をどんどん増やさなければならないことは確かです。2050年カーボンニュートラルと宣言していますので、2050年に向けて我々は再生可能エネルギーも含めた炭素を排出させないゼロカーボン電気を増やしていくこと、これが電力会社にとっては大きなミッションです。

山岡:世界中で多くの取り組みがありますが、例えば、Googleの親会社であるアルファベット社の子会社であるSidewalk Labsが主導した“Sidewalk Toronto”という、カナダのトロントでのスマートシティ開発プロジェクトがありました。このプロジェクトでは、情報通信網で街全部を覆い、例えば個別の家庭に「洗濯機を回すならあと2時間待って」といった省エネ策を指示するなどの構想がありました。

電力はピーク対応が大変なので、市民が消費量を均す方向で協力してくれれば好都合である一方、ピーク時の電力消費が大きいとキャパシティ対応に資源を費消してしまいます。そのため、ピークを均すために「洗濯機を使うなら2時間待ってください」や、「今は空いているので電力を使えます」などと各家庭に情宣するなど、情報とエネルギー消費を一体とした効率化を計画していました。残念ながらこのプロジェクトは中止されたのですが、将来的には情報網とエネルギーの効率化をどう融合するのかは大事ですし、エネルギー使用の平準化や効率化など、省エネルギーやグリーン化に協力してくれる各家庭にどうリワードを渡していくかも大事になっていくと思います。

石田:その通りですね。実は電力業界も今までであればお客様が使われる電気の量に応じて発電所の出力を調整してきました。電力は基本的に貯めることができないため、電力需要量と発電量の「同時同量」が原則であり、この方法は普通のやり方でした。

図:電力の需要と供給(電力需給バランスが均等な時)
(出所:資源エネルギー庁 電力需給緊急対策本部(平成23年3月25日)の参考資料を元に資源エネルギー庁作成)

しかし、再生可能エネルギーは言い方を悪くすると、お天気まかせでそのまま発電してしまいます。そのため、作られてしまう再生可能エネルギーに対しバランスを取るための調整力の強化が不可欠であり、その調整力が既存の発電所ではキャパシティが足りなくなっていくこともあります。

図:最小需要日(5月の晴天日など)の需給イメージ
(資料提供:関西電力株式会社 資源エネルギー庁「日本のエネルギー2023」(2024,2)をもとに作成)

電力業界では、発電所で調整ができないのであれば、お客様側の機器を調整することでそのバランスを取ることができるのではないかとここ何年か取り組んでいることが、業界用語で「バーチャルパワープラント(VPP)』です。
仮想的な発電所を需要側に期待する、遠隔で制御していくような取り組みがこれからどんどん活躍していくのではないかと思っています。 そのためには、遠隔で制御する場合、制御の対象が1つではなく沢山のものを制御しなくてはならないため、ICT技術・情報通信技術が当然必要となっております。 バーチャルパワ―プラントの取り組みを積極的に推進していこうと思っている次第です。

山岡:ブロックチェーンの分野では「スマートコントラクト」が代表的な技術であり、特に保険への適用がよく議論されています。例えば、健康維持のための運動や安全運転の実績に基づいて保険料を自動的に調整する仕組みが挙げられます。これにより、個人の行動を促すインセンティブをリアルタイムで賦与するというものです。

この仕組みと同じように、節電に協力するご家庭ほど電力料金が安くなるとか、あるいは節電のリワードがデジタル通貨で得られ、これをさまざまな支払いに利用できるようにすることが考えられます。もちろん、このデジタル通貨で電力料金を支払っても良いですし、それこそ電力取引分科会の実証実験のように、コンビニで買い物をしても良いでしょう。このように、社会的なインセンティブの創出にデジタル通貨を活用していくのは、将来的には面白い分野でしょうね。

石田:今のところバーチャルパワープラントのインセンティブをお渡しするという形で進んでいるのですが、残念ながらまだデジタルで払うという取り組みにはなっておりません。ポイント付与か振込ですので、今後はもっとデジタル技術を使って決済・支払いもデジタル通貨という形になれば域内が広がっていくと思っています。

お金やエネルギーに「色」を付ける

山岡:石田様の視点から、今後の日本のエネルギーのあり方、それに対するデジタル通貨の応用や在り方について、ご見解を伺えないでしょうか。 将来的には、日本のエネルギー構成のあり方まで考える必要があると思いますが、例えばエネルギーについては、再生エネルギーを含めさまざまなエネルギー形態がハイブリッドになっていくと予想しています。

石田:DCJPYであれば、通貨としての役割に加え情報をプログラマブルに組み込むことができることもあり、例えば「グリーン由来であるか」といった+αの価値を通貨そのものに付与できます。 そのような仕組みを活用しつつ、電力取引のインセンティブと組み合わせながらやると、よりエネルギーが魅力のあるものになっていくのではと思った次第です。

山岡:ブロックチェーンが登場した時、通貨への応用に対して「カラードコイン」、すなわち「お金に色が付いている」ような表現が生まれました。元々「お金には色が無い」と言われていましたが、新しい技術によって、これに「色」を付けられるようになったわけです。 この観点から、現在のエネルギーを巡る議論で興味深いのは、「グリーンエナジー」、「ブルーエナジー」、「グレーエナジー」といった「カラードエナジー」、すなわち、特定の色を付したエネルギー源や技術を示す言葉が登場したことです。

これは通貨と発想が似ており、お金同様、エネルギーも元々は「色が無い」と思われていましたが、最近のデジタル技術によってこれに「色」を付けることが可能になったということだと思います。ブロックチェーンにより、エネルギー源のトラッキングが可能になったことで、例えば「このエネルギーは全て再生可能だからグリーン」「これは海洋由来だからブルー」と表現することができます。ブロックチェーンの応用として行われていることは、お金の分野もエネルギーの分野も似ているように思えます。

石田:昔から電気に色は付けられないという常識の中でずっと育ってきましたが、ブロックチェーンであれば色を付けられますよね。これはなかなかショッキングな話でした。
ただ、電気に色がついていた場合、ただ色々な蛇口から1つのバケツに注いでしまうと色が混ざって何色の電気をどのぐらい使ったのか区別がつかないようになってしまいます。しかし、蛇口1つ1つにトラッキングが可能なメーターを付けて、それぞれの色ごとに使った量との紐づけ(トラッキング)をすることが可能になるというのは、ブロックチェーン技術ならではだと思います。エネルギー源もお金も同じ考えができるのだと感心しました。

山岡:お金やエネルギーに追加的な情報が乗っているということですよね。100円なら100円というのではなく、100円+αで何かしらの情報を乗せることができます。電力も同じで、追加的な情報が乗ることで「グリーン」や「ブルー」になったりするわけですね。

石田:電力を使う側から見ると物理的には何も変わらないただの電力なのですが、その電力が何から作られたのか、石炭なのか水か風なのか、ただそれだけかもしれませんが、ブロックチェーンによって電力に色を付けられるようになったのは大きな進化であると思っています。

山岡:追加的な情報処理というわけですね。このような情報処理の道具としてブロックチェーンをどう使うか、例えば、グリーンのマネーとグリーンの電力をいかに交換するかという課題が生まれてきます。その意味で、応用範囲はとても広いと思います。電力もマネーも社会の根本的なインフラですが、ここで考えられているのは、色々なトランザクションに付加される情報を用いて、どのように分散型の構造の下で効率的に取引をするかということであり、その応用範囲は広がっています。

石田:お金もエネルギーも社会のインフラということを改めて考えると、両方を組み合わせて色々なことができるのではないかととてもワクワクしてきます。

電力取引分科会がこれから目指していく道

山岡:最後にこれからのデジタル通貨フォーラムでの活動に対する期待などがございましたらお聞かせください。

石田:デジタル通貨フォーラムへ参加をしてDCJPYの活用の検討を進めておりますので、DCJPYを使って何がしかのサービスを提供するような方向に進めて行きたいと思っています。 ただ、実証実験を行うだけで終わってしまうとサービス化には至らないです。電力取引分科会としても、関西電力として銀行仲介業に参入しましたので、BaaSの組み合わせも含め何か新しいサービスを提供できたらいいなと思っています。

山岡:これまでデジタル通貨フォーラムが検討を進め、そのデザインをもとにディーカレットDCPが構築した“DCJPY”は、2024年夏にサービスを開始しました。この第一号の発行のケースでは、DCJPYネットワークでインターネットイニシアティブが環境価値のデジタルアセット化とDCJPYでの決済を行い、GMOあおぞらネット銀行がDCJPYの発行銀行となりました。DCJPYの実発行に伴い、多くの主体がこの実例からさまざまなことを学べるでしょう。

PoCや実証実験の段階を超え、デジタル通貨フォーラムでの検討を、今後さまざまな主体がどうビジネス化していくかを考える段階にきていると思います。 今回の実発行も、デジタル決済手段とデジタルアセットとの交換の一類型と捉えることができます。したがって、何をアセット化するのか、またこれらをどう繋げるのか次第で、幅広い応用が可能と考えられます。例えば、資金の側でさまざまな情報処理が可能になりますし、また、デジタル化により新たに取引が可能になった財やサービスなどの価値にもさまざまな情報を結合させることができます。

そのうえで、これらをどのように分散型の構造の下で処理していくかという話になります。このように、今回のデジタル通貨DCJPYの実発行ケースは、幅広い応用が可能であることをお伝えしたいと思いますし、これをさまざまな主体が経済活動やビジネスに繋げていく動きを支援してまいりたいと思っています。

山岡 浩巳座長

デジタル通貨フォーラム座長
フューチャー株式会社取締役 グループCSO

日本銀行において調査統計局景気分析グループ長、同企画室企画役、同金融機構局参事役大手銀行担当総括、金融市場局長、決済機構局長などを務める。この間、国際通貨基金日本理事代理、バーゼル銀行監督委員会委員なども歴任。

石田 文章氏

関西電力株式会社
イノベーション推進本部
次世代エネルギービジネス推進グループ チーフリサーチャー

デジタル通貨フォーラム電力取引分科会幹事。関西電力に入社以来、主に送変電設備の計画、解析業務に従事。
現在は、次世代エネルギービジネス分野の推進に携わる。専門分野は電力系統解析、再生可能エネルギー、スマートコミュニティ技術、VPP、P2P電力直接取引技術。

関連記事

VOL.1 電力取引分科会が環境価値で取り組むグリーン経済と未来の電力市場

インタビュー 分科会
2024.12.12