ディーカレットDCP

VOL.1 キャッシュレスを超えるDX。デジタル通貨DCJPYで
未来型の行政をサポートする
行政事務分科会とは

100を超える企業・自治体・団体が参加するデジタル通貨フォーラムは、デジタル通貨を活用した社会課題の解決や新しいビジネスの創出に向けて、分科会ごとに議論を重ねています。 このうち行政事務分科会は、税の納付や各種給付・補助金の交付など資金の流れを伴う行政手続きについて、デジタル通貨を活用し課題の解決を検討しています。今回は、行政事務分科会が描くデジタル通貨DCJPY(仮称)を活用した行政の未来についてお話しいたします。前編では、行政事務分科会の幹事である桜美林大学の木内氏とTOPPANエッジ株式会社の高田氏に、行政事務分科会の活動と行政事務が現在抱える課題について、山岡座長とともに語っていただきました。

デジタル通貨フォーラム 行政事務分科会とは?

デジタル通貨フォーラム 山岡 浩巳座長

山岡 浩巳座長(以下、山岡):まずデジタル通貨フォーラムにおける行政事務分科会の活動についてご紹介します。
デジタル通貨フォーラムが検討を進めるデジタル通貨DCJPYネットワーク*はキャッシュレス化や金融包摂だけを目的にしているのではなく、金融が情報インフラとして進化してもっと大きな発展を遂げていく、その基盤をつくるネットワークとして位置づけております。
色々な分科会があるなかで、今回ご紹介する行政事務分科会は非常に大きな役割を担っています。具体的にはまず、行政事務そのものをデジタル化を通じて効率化していくことが挙げられます。これは日本全体にとっても大きな課題となっています。
例えば、2020年にはCovid-19対応として特別定額給付金10万円の給付が行われました。当初、これをマイナンバーカードを使って給付できないかという議論がありましたが、うまくいかずに手作業で処理をせざるを得なかったという経験がありました。
もし、デジタル通貨DCJPYネットワークを行政からの給付に簡便な形で使うことができれば、このような給付もスピーディーにできるかもしれません。また、行政からの給付がスピーディーにできれば、それだけ消費の刺激効果も経済の落ち込みに合わせて速やかに出てくることになります。これは政策の効果という意味でも大きいわけですよね。このように、デジタル通貨DCJPYネットワークは、行政の施策の効率性や効果を高めることにもつながります。

*DCJPYネットワーク: DCJPYによる金流を担うフィナンシャルゾーン、商流を担うビジネスゾーンの2つのブロックチェーンをインターオペラビリティ(相互運用性)で連携するシステム

(解説:De Beyondデジタル通貨入門メディア(3分でわかるデジタル通貨DCJPY~私たちが提供するサービス編~))

木内 卓氏(以下、木内):例えば10万円の給付に関して言うと、これは政策の観点からすると、批判もあるわけですね。 一律に配ると結局貯蓄に回されてしまうだけかもしれない。経済の活性化に使われない、そういうことが起こりうるわけです。 

これに対してDCJPYで給付する際に、特定の用途にしか使えないというプログラムや期限付きのプログラムを組み込むことにより、例えば子育てを支援したい場合、子育て目的の購買活動、ベビーカーやおむつ等を買う時にだけ使えるように制御することができます。また、期限付きなので使われなければ期限切れとなってしまう。そのような給付を考えられるかもしれない。そうすると、同じ給付であっても、施策の効果を高められる可能性が出てきますね。

行政事務分科会幹事 桜美林大学 木内 卓氏

山岡:行政事務分科会が地域通貨分科会と一緒に活動をすることで大きな可能性が生まれます。
日本のもう一つの課題として『地域創生』がありますが、これを自治体と地域が一体となって進めるために、例えば、地域の方がパブリックな貢献活動をしたときに、リワードをデジタル通貨という形でスピーディーに提供する。例えば、ボランティア活動、地域のゴミの削減、CO2排出量の削減などの活動をした際にデジタル通貨でリワードをスピーディーに提供し、これを地方税の支払いや地域内での消費に使えるようにすれば、地域内での貢献活動という価値を域内で循環させられるかもしれない。
加えて、地域で人々の購買活動に関するデータ、例えば、人々がどのようなタイミングでどんなものを買っているかなどを収集できれば、それを行政の施策にとって有益な情報として活用できる可能性も広がるわけですね。
このように、行政事務分科会と地域通貨分科会がともに活動することで、地域の経済を活性させると同時に、地域における行政の効率性・効果も高められる可能性が生まれます。

この点、行政事務分科会は地域通貨分科会と時に連携して活動することで、大きな業績を上げてこられています。

行政事務分科会には会津若松市・気仙沼市・東京都・浜松市・熊本県などの自治体もご参加いただき、行政事務の効率化や行政の施策効果の向上を目指して多面的な活動をしてこられました。このことは、大きな意義があると思います。 今後も、行政・自治体と企業・金融機関が一体となって取り組みを進めることで、デジタル通貨ネットワークは単なる金融包摂やキャッシュレス化だけでなく、地域の方々の利便性を高めるための地域のデータ・情報の活用を進めるインフラとして社会に貢献できる可能性が、大きく広がると考えております。

行政事務の課題とは?

 申請から精算までワンストップで行えると行政事務はここまで効率化できる!

山岡:行政事務あるいは地域活性化、このような観点からみて課題や解決の方向性につきまして、お二人からお話をいただければと思います。

木内:会津若松市と気仙沼市で、2022年3月に子育てクーポンを給付しお店で使ってもらうというPoCを実施し、2023年の3月には東京都をフィールドとしてフィンテック事業者向けの補助金を模したPoCを行いました。
会津若松市・気仙沼市での子育てクーポン給付PoCでは、先ほど申し上げたように、子育て世代に対して、例えば赤ちゃん向けのミルクや子育て関連用品には使えるけれどもアルコールは買えない、という制御ができるかどうか、またDCJPYを使った資金精算が可能かを検証しました。
東京都のPoCでは、通常、補助金に関わる業務は、補助対象事業を決定してからその後事業が行われ、事業が終わった後に事業報告を提出してもらい、それを行政としてチェックしてOKとなってから補助金の交付がなされます。
行政側では書類のやり取りやチェックの負担があり、事業者側は補助金が交付されるまでの間は資金を立て替える必要があり、これら双方の負担をDCJPYで軽減できないか、簡便な機能検証ではありましたが行いました。 いずれのユースケースにおいても、従来、給付や交付が郵送ベースや紙のやりとりで非効率であった業務を、DCJPYを用いることでデジタル化し、各種制御を加えると共に資金精算を即時に行うことで、業務の効率化と資金の流れをスムーズにする効果があったと思います。

(右)行政事務分科会幹事 TOPPANエッジ株式会社 高田 守栄氏

高田 守栄氏(以下、高田):行政事務の課題として、申請・給付と精算が業務として分かれてしまっていることが挙げられます。会津若松市・気仙沼市のPoCではDCJPYを用いてワンストップで精算まで行うことができたため、自治体から高い評価を得ることができました。すなわち市民にお金を給付し、何かを購入した後、事業者に対する精算までを途切れることなく行えたこと、施策ごとに業務が分かれている場合でも、DCJPYを用いて精算まで一気にできることが魅力であると考えます。

山岡:他に参加された自治体の方々からの評価はいかがだったでしょうか?

木内:子育てクーポンの交付については、自治体としては10万円の特別定額給付金の時には非常に苦労したということでした。
まず、「給付金を受け取るか?」という通知を郵送し、それを返送してもらうと共に、本人確認のために運転免許証等の写しを添付し、振込先の銀行口座を指定してもらって、そこに対して振込をする。クーポンの場合はさらに印刷したクーポンを郵送するわけです。お店でクーポンを使ったら、お店側はクーポンをまとめて市役所に精算のために提出し、それを市役所では真贋チェックをした上で、月末締め等でお店に対して振込をする。これは非常に業務の負荷がかかり、かつ資金が最終的にお店に届くまでに3~4か月は最低かかります。
実際にPoCに参加いただいた職員の方からは、「これができればとても便利だ」と評価をいただきました。東京都の補助金についても、提出される事業報告書の裏面に紙の領収書が貼付され、それを行政側で一つ一つ支払い実績との突合を行い、確認するという極めて地道な作業となっており、行政からするとものすごく負担になっているのだろうと思います。

紙でのやりとりはなくせないか?

 証跡はデジタルでも残すことができる。デジタル給付なら事務を効率化し即時に受け取れる!

山岡: デジタル化の利点がこれほど明白な一方で、紙でのやりとりがなかなかなくならない理由として、住民の意思を確認するためには紙で証跡を残さなければならないなど、何か理由があるのでしょうか。

木内:給付については民法上贈与に該当し、送る側だけでなく送られる側の意思も必要であるため、受け取るとの意思確認をしなければいけないということがあります。この意思確認において、会津若松市・気仙沼市のPoCでは郵送ではなくメッセージアプリ(スマホ)を使って(スマホが本人のものである確認は終えている前提で)「受け取りますか?」と確認通知を行い、「受け取ります」という返事をもらいました。ボタン一つで返してもらって意思確認をし、給付できました。

山岡: 逆に言えば、「デジタルの証跡でOK」と割り切って切替えれば進むということですね。

高田:実証実験を行う際に、自治体の方に聞いてみたところ、「割り切ってしまえばデジタル給付でも進められる」という話がありました。 デジタルベースでも証跡がしっかり残るようにすれば良いのだと思います。

山岡:他にPoCで深められた知見や残された課題としては、どのようなことがあるでしょうか?

木内 :PoCをやってみることで、紙だと住民もしっかり読んでいる一方でスマホだと流し見してしまう、という課題や、よくいわれる高齢者を中心にスマホを使い慣れていないという課題もありましたが、むしろ会津若松市や気仙沼市では、スマホでも十分できる、スマホを使ったサービスを拡充していこうとの自信につながったと伺っています。

高田:特別定額給付金10万円の時は自治体への問い合わせや紙での申請が集中し、業務の負荷が大きかったと聞いています。DCJPYでPoCを行った結果、時間を短縮でき、職員の負荷も軽減できることが分かりました。ユニバーサルサービスとして紙の通知も残りますが、子育て世代はスマホの普及率が高いため、即座に給付される事務の効率化は非常に重要なポイントとなります。