2025/08/01
インタビュー

山岡座長が解説!④:国際決済銀行(BIS)論文「次世代の通貨・金融システム」

「次世代の通貨・金融システム」について、山岡座長へのインタビューも最終回です。これまでBISの役割・BISが公表した年次報告書の一環である論文「次世代の通貨・金融システム」における3つのポイントを解説いただきました。こういった世界の取り組みと私達デジタル通貨フォーラムの取り組みはどのような関わりがあるのでしょうか。

デジタル通貨フォーラム 山岡 浩巳座長

デジタル通貨フォーラム事務局(以下、事務局):BISの論文が各国の企業に及ぼす影響についてはどのように感じられますか?

山岡 浩巳座長(以下、山岡):最近の米国の動きについて、米ドルの使用を促す当局の発言と相まって、各国の企業では「米ドル建てステーブルコインでの代金の受け取りを無理強いする動きが出てくるのではないか」といった警戒感もありました。この中で、BISのような国際金融当局が論文でステーブルコインに警鐘を発していることに安堵している向きはあるように思います。

事務局:次に「トークン化国債」の意義についてはいかがですか?

山岡:この論文は、ブロックチェーンによりデジタルトークン化された支払決済手段の長所として、「スマートコントラクト」などを通じて、さまざまな電子的な帳簿の更新を連動させながら行えることを挙げています。
したがって、このような支払決済手段の長所を最大限に発揮させるためには、トークン化預金で取引されるモノの側も「プログラマビリティ」を備え、その電子的な帳簿をブロックチェーン上で連動して更新できれば望ましいことになります。そうなると、既に電子化され、市場規模も大きく、また資金との短期の交換であるレポ取引や担保などにも広く使われている国債をデジタルトークン化することが、有力な選択肢として考えられます。BISは、このようにデジタル通貨とデジタル資産が連動する形で取引されるプラットフォームの姿を「統合台帳(unified ledger)と表現し、これが次世代の金融インフラの姿であろうと提言しています。

出所:Bank for International Settlements

事務局:デジタル通貨フォーラムの検討とも重なる点が本当に多いように思いますが。

山岡:はい。デジタル通貨フォーラムでも、「既に電子的な支払決済手段は数多くある中で、ブロックチェーンベースのデジタル通貨を使うことが真に効率性や経済厚生を高めるユースケースはどのようなものだろうか」と真摯に検討を続けてきました。また、ブロックチェーンの大きなメリットとして「電子的な帳簿の更新を連動させられる」という点を強く意識してきました。 国債の発行形態は国の国債管理政策の一環になりますので、デジタル通貨フォーラムとしては民間の立場から、「民間でできることは何か」を考え、サプライチェーンでのモノの動きとの連動や行政・地域サービスとの連動、各種のデジタルアセットとの連動などを検討してきました。

このように、「デジタル支払決済手段を考える上では、取引の対象についても総合的に考えなければならない」という点についても、BIS論文の問題意識は、我々フォーラムの検討と重なります。

事務局:BISのような代表的な国際機関がこのような調査研究の成果を発表していることは、デジタル通貨フォーラムにとっても心強いですね。

山岡:はい。我々フォーラムは2020年から、これからの時代に望まれるデジタル金融インフラのあり方について検討を重ねてきた訳ですが、今回、BISのようなエキスパートの集まる国際組織が、やはり真剣な検討を経て同じような結論を導き出していることは感慨深いです。

また、BISの論文が「次世代の通貨・金融システム」と題しているように、デジタル通貨の問題を考える上では、「これからの金融インフラはどうあるべきか」という大きなピクチャーをまず考え、その中で望ましい支払決済手段のあり方をデザインしていくという方向性も、我々と同じアプローチです。

 BISの論文では、「現在の二層型通貨システムをそのままデジタルトークン化する」というビジョンの下、トークン化預金が、トークン化中央銀行預金や、トークン化国債のようなデジタル資産と連携しながら、経済活動が行われていく姿が想定されています。

我々フォーラムとしても、今後、さまざまなデジタル資産との連動や中央銀行ファシリティとの連携なども展望し、積極的に取り組んでいきたいと思います。

事務局:どうもありがとうございました。

話者紹介

山岡 浩巳

日本銀行において調査統計局景気分析グループ長、同企画室企画役、同金融機構局参事役大手銀行担当総括、金融市場局長、決済機構局長などを務める。
この間、国際通貨基金日本理事代理、バーゼル銀行監督委員会委員なども歴任。

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